一昔前の家庭教師に対する一般的なイメージは、おそらく「大学生のアルバイト」「高学歴の主婦のパート」のようなものだったのではないでしょうか。しかし、そうした世間の印象とは異なり、現在活動している家庭教師の多くは、家庭教師を生業にしています。

 

博士号を所持した家庭教師もいます。それどころか元プロ野球選手もいます。オリンピアもいます。医者も弁護士もいます。いまや家庭教師の担当する分野は、学校の教科だけではありません。人の生活のすべてが対象になっています。

 

例えば、このような例があります。定年退職をしてやることがなくて家にジーとしている方が「本当は昔からピアノを習いたかったのだ。でも、今更この年で男一人、小学生と一緒に近所のピアノ教室に通うのは気が引ける。トライさんに頼んだら家庭教師としてプロのピアニストからレッスンを受けることができた。」

 

小学生の学校の授業の補修のためという従来の家庭教師のイメージとは、少し違ってることがお分かりいただけたでしょうか。もちろん、現在でも、以前の家庭教師に対するイメージ通りのサービスは提供しています。しかし、その事業分野、家庭教師の質は目まぐるしく変化しています。そこで第1回目は、大学受験に照準を絞ってお話します。

 

1、20年前の大学受験のイメージは、現在通用しません。(現在の大学受験)

 20年前の大学新入生募集人数は、受験可能年齢数の40%でした。したがって、バブル後期では、どこの大学にも受からずに浪人生になった受験生は大勢いました。その頃は現在と比べて大学進学自体が大変でした。

 

その状況を簡単に説明しますと、まず入学難易度を表現する言葉で「偏差値」というのもがありまして、これを利用しながら説明するとご理解しやすいと思います。偏差値の平均が「50」で、その数字が上がれば難易度が上がり、下がればその逆というものです。

 

例えば偏差値60としましょう。この数字は、母体に対し約16%の位置にいることを意味しています。30人クラスで4・5番目に位置していることになります。さて、当時の大学に難易度は、ざっくりと申し上げると戦前からあったような大学はすべてこの60のラインを超えていました。現在は、50あるいはそれ以下と評価されている大学もその当時は、実は全体の上位16%に入るような優秀な学生が集う学校だったわけです。

 

 バブルが崩壊し、またその後の大学設立ラッシュからこのような状況が一変します。現在の大学新入生募集人数は、受験可能年齢と拮抗しています。それどころか2018年には両者の数は逆転して前者の方が多くなります。これは定員割れする大学が生まれるということを意味します。つまり、現在は選り好みをしなければ誰でも大学生になれる時代になったということです(大学全入時代)。

 

 しかし、この大学全入時代によって相対的にすべての大学の難易度が下がるということにはなりませんでした。入学難易度が低下したのは、主に私立大学の文系学部で、医学部などはむしろ以前より難易度は上昇してきています。地域間においても変化が起きています。30年ほど前は首都圏の予備校でも「関関同立」という表現は目にすることができました。

 

「関関同立」とは、関西に存在する名門私立大学の総称です。しかし、現在関東でその名称を目にすることはまずありません。関東の受験生が関西の私立大学を受けなくなってきたのがその要因です。もっと言えば多くの家庭の家計が厳しくなっているので、家から通える大学に進学するという傾向が生まれています。その結果、地方においては受験母体数の差が競争率に現れ、結果的に難易度が低下しているというのが現状です。

 

2、今や予備校講師は斜陽産業?

30年前の予備校講師の中には、時給15万円の講師がいたそうです。年収1000万円は普通で1億クラスがトップ講師の証だったそうです。大上段に上がりマイク片手に授業する姿はもはや授業というより芸人のパフォーマンスと言った方が本質をついているのではないでしょうか。

 

しかし、大学新入生募集人数と受験可能人数の差が縮小していくと同時に浪人生数に低下、はては勉強しなくとも受かるような大学が出てきたことから受験勉強する必要さえなくなるという生徒さえ生まれていました。

 

 このような状況で、予備校はどんどん規模縮小あるいは倒産していきました。こうした状況で行き場を失った人たちがいます。予備校の講師です。大学を出て予備校の講師をしていますので、今更大学の新卒のように就職活動をしてもどこも取ってくれません。かといって、自分が所属する予備校だけが運営を誤って倒産したのなら、他の予備校に転職すればいいだけです。

 

しかし、業界全体で同じような状況が生まれている現状では転職という選択肢は脆くも消えます。現在、大量の元予備校の講師が職を失っている状態です。確かにテレビをつければテレビタレントさながらに登場する予備校講師もいらっしゃるようです。しかし、その数は限りなく少ないです。あるデーターによると予備校講師の年収平均は大手であっても400万円程度だそうです。

3、今一番勢いのある教育産業は、家庭教師!

 予備校講師が職を求めているのは、先に説明しました。現在そうした元講師が大挙して押し寄せているのが家庭教師センターです。今有る大手予備校は、20代30代前半を中心に授業を組んでいます。30代後半以降の元講師は、次の職場を確保しなければならない状況に追い込まれています。

 

家庭教師の就職面接でもその変化を見ることができます。「私は、この本を執筆しました」とか「去年まで、・・・ゼミナールに在籍していました」などそうそうたる顔ぶれです。学歴も家庭教師センター側のより取り見取りです。現在、関東圏で医学部受験の家庭教師を頼んだ場合、その教師の出身校で一番多いのは「東大」ではないでしょうか。

 

私が経験したケースでも、「東京大学受験生」で私(名古屋大学)が英語を担当し、数学・物理を東京大学出身の講師が、国語は早稲田大学出身が担当しました。実は、私の前任者がいまして彼は東京大学しかも法学部出身らしいのですが、生徒が「合わない」ということで私が交代したという経緯があります。

 

ということは、わたしに変わる前の教師の編成は半分が東京大学卒の家庭教師ということになります。なにしろ、需要と供給量にいままでにないほど差が生まれているが現実です。完全に供給量が需要量を超えています。おそらく、このような状況は二度と起きないでしょう。これほど魅力のない予備校講師になろうという若者は出てこないでしょう。

 

いろいろな要素が偶然重なった結果起きた家庭からすれば夢のような現象です。しかし、これは事実です。講師はいくらでもいるので、家庭からしたら選び放題です。東大卒だろうが京大卒だろうが、はては一流大学の研究者クラスの家庭教師を雇えるわけです。