1、医学部受験は魑魅魍魎の世界です。

 私は医学部出身ではありません。ただ医学部受験生を長年指導してきましたので最近の医学部受験がいかなるものかについてお話することはできます。
 私は、トライ医学部コースに籍を置く前に渋谷にある医学予備校にて講師として活動していました。その時の話です。そこは集団と個別の両方の授業スタイルが混在する形の授業編成を取っていました。私が最初に担当したのは、個別の生徒でした。お互いの自己紹介したときのことです。「自分はまだ25歳ですから」と言われました。最初何を言いたいのかが判りませんでした。よくよく聞いてみて、「まだ」という意味が判明しました。要するに、医学受験は大変だと、したがって7浪などざらにいる、むしろそのぐらい浪人するのは普通だ、ということのようでした。私は、その事実を知って愕然としましたが、どちらが正しかったかは、すぐに判りました。私の認識が間違っていました。次に担当した生徒は26歳、その次は30歳、そして同じ内容のことを言われました。
 私は、考えました。仮に彼らのいう通り医学受験は、大変難しいものだとしても若いかれらの貴重な時間をそれほど潰してもいいのものかと思いました。自己嫌悪に苛まれる日々でした。2年ほど勤務しましたが、価値観の違いから辞職して、一般の予備校の講師に専念しました。その勤務していた予備校が倒産したことでトライ講師として活動することになりました。

2、トライ医学部コースが一般の医学部予備校と決定的に違う点

 「鉄緑会」という言葉は、東大あるいは医学などの難関大学を受験しようとする受験生の間では、なじみの言葉でしょう。東大理Ⅲに入学定員の半数近くの生徒を合格させている予備校です。しかしこの予備校はだれでも入学できるわけではないのです。「指定校」制度を採用しておりまして、それ以外の学校の生徒は、基本的に入学させないというシステムを取っているのです。トライは、医学部コース開設にあたり医学博士であり、東大医学部をご卒業なされた和田秀樹先生を招き、理想の授業について何度も話し合いを持ちました。結果論から申し上げると「鉄緑会」と提携するのがいいということになり、先方と協議を重ね、業務提携を結び、門外不出だった鉄緑会の方法論に裏付けられた家庭教師コース開設となったわけです。したがって、トライ医学部コースのカリキュラムは、鉄緑会の監修のもとに作成されたものです。そして、定期テストを用意していますが、これは本家鉄緑会で使用されているものを和田先生と協議して作り出したものです。東大理Ⅲの合格者の半数が利用している予備校、しかし、指定校制度ゆえ通いたくとも通えなかった予備校です。そのノウハウをトライが受け継いで家庭教師という形で提供している教育プログラムが「医学部コース」です。

3、医学部コースの講師選考

 基本的には、「プロ」枠の講師から選抜するそうです。しかし、担当責任者曰く、一般大学の家庭教師として評判がいいからと言ってすんなりと医学部担当として成功するとは限らないそうです。このことは、少し考えれば自明のことです。すなわち、一般大学の入試難易度は偏差値30から上は70越えまで千差万別です。しかるに、現在の医学部入試は、一番入りやすいところでも偏差値60を軽く超えています。もっとわかりやすい表現に直すと、医学部に入学するためには、最低でも早慶レベルに達していなければ受からないということです。一般の大学受験で一番問い合わせが多いのは、中堅私大受験層です。それから、入試シーズンの直前期の駆け込み組です。この駆け込み組というのは、部活動やその他さまざまな理由で受験勉強してこなかった生徒が、入試1か月前になって、何とかしてほしいと家庭教師を頼むケースです。中堅私大以下の大学に受からせる指導力と早慶レベルを超える力をつけさせる指導力は、当然異なります。一般の大学の指導となりますと大抵は文法内容が定着していないですから、文法チェックから始まります。一方、医学部受験生は、特に多浪生は、勉強してこなかったわけではありません。むしろ、受験生ならだれも持っているような参考書を持っていて、しかもすでに終えている場合が、多いです。私が担当した生徒では、さらにいろいろと予備校を渡り歩いてきているような生徒も珍しくありません。要するに一般の受験生のスタートラインは、すでに終えているのが平均的な医学部受験生です。そうした生徒の弱点を見抜き、指導することができる講師が最終的に医学部コースの講師に認定されます。

4、医学部コースの授業とは?

 まず、本人も気づいていない弱点を炙り出します。簡単にいえばテストをします。このテストは鉄緑会監修のもと作成されたものです。その結果から勉強メニューを組んでいきます。具体的には、鉄緑会の指導の下に、指定教材が決まります。同時に履行期間も決まります。そして定期的に習熟度テストが実施されます。そこで当初の学習計画を見直します。この作業は、かなり機械的です。淡々と進んでいくというイメージです。個人的な印象は、生徒に対する評価がかなり厳しいということでした。一般的には、もう十分だろうと思えるレベルに達しても本部のほうからやり直しの指示がでます。嘗て鉄緑会にいた生徒の言葉を思い出しました。「ただ、受かるだけではだめなんです。100回受けて100回受かるような実力をつけることを要求されるのです。」絶対に合格するとはこうゆうことかと納得しました。
 指導場所は、各家庭やトライの教室どちらでも選べます。トライの教室では、生徒が使えるパソコンが常設されていて、その中には中学生レベルから一般大学レベルまでの全教科のドリルが入っています。医学部受験の生徒はあまり使用することはないかもしれません。ただ、苦手科目というものは、誰でも有しているものです。自分の弱点克服、あるいは、易しい問題を解くことで自信を回復するという使い道はあるかもしれません。

5、実際の医学部入試

 これも、結構知られていないことですが、特に自信のない生徒ほど受けられる限り大学を受験します。例えば、入試日程で一番早いのは、大概岩手医大ですが、センター試験の次の日あたりが1次試験になります。そこから2月初旬までの3週間毎日受験ということになります。しかも、大抵の大学は、1次は東京でも会場を設定してくれるので受けられますが、栃木にある独協医大と岡山にある川崎医大だけは、昔から東京受験会場を設けず本キャンパスでの受験になります。この独協医大というのが東武日光線というローカル電車に乗っていかなければつけないところにあって、都心から向かうと最低でも2時間はかかるところに位置しているのです。そうすると、前日午後4時に入試を終え、帰宅します。その日が独協医大の入試日とした場合に、8:30に間に合うように5時ぐらいには家を出なければなりません。さらに川崎医大を受けるとなると前日に岡山入りしなければなりません。前日やはり4時にどこかの入試が終わったらすぐに東京駅にいって新幹線に乗り込むか、羽田までいって飛行機で向かわなければなりません。そうこうしている内に最初に1週間がすぎます。そうすると、最初に受けた岩手医大あたりの1次発表があるわけです。そこで、不合格だとそれまでです。受かっていれば、次は2次の準備です。この2次試験というのが結構大変なのです。1次試験とは異なり2次試験は、大抵本キャンパスで試験を実施します。2次試験日は、発表後大体1週間前後です。1次試験は3週間連続しています。2次試験は、発表から1週間後です。当然、日程が被ります。今年は、判っている限りで申し上げると杏林大の2次試験日と東邦大の1次試験日が被りました。
 さらに、受験生を苦しめることがあります。最終合格したとします。でも日程の早い大学とは大抵滑り止めの大学ですから、受験生にしてみれば第1志望のところではないわけです。しかし、受かれば、短時間の内に入学手続きをしなければ入学辞退したとみなされます。受験生は、結果的に本命の大学の1次試験を受けていない時期に滑り止めの大学で入学手続きをする羽目になります。そうすると、仮に本命が受かって入学を取りやめにしたとしても入学金は、返還されないケースが多いです。
 しかし、大学側もこの時は結構大変です。合格者を発表したのはいいですが、どの程度入学辞退者が出るかわからないからです。ここで、医学部受験業界の一般意見を元にどのように受験生が大学を捉えているかの説明をします。まず、東京大学をはじめとする旧帝国大学系の医学部合格者は、そのまま入学します。次に旧六医科大学というのがあります。これらは戦前からある伝統ある国立大学の総称ですが、現在でいうところの千葉大学・金沢大学・岡山大学・長崎大学・熊本大学の6校のことです。ここの合格者も大半はそのまま入学します。それから筑波大学の医学部そして横浜市立大学医学部・東京医科歯科大学も人気の高い大学ので、合格者は、そのまま入学していきます。その他の大学では、信州大学と京都府立大学も人気が高い大学です。これらの大学合格者は、私大医学部を滑り止めと考えているので私大が受かっていても本命の大学受ければ、私大は辞退するでしょう。問題は、残されたほかの国立大学医学部と私大医学部の関係です。まず考え処は費用です。一番安いとされる順天堂大学医学部でさえ6年間で2千万円を超えます。一方、国立大は、入学金1年間の授業料合わせて100万円で収まります。
 昨今の医学部ブームから医学部受験層も変わりつつあります。昔なら東大理Ⅰを目指したような受験生が医学部受験をするような時代です。しかも、一昔の医学部受験生は、親が医者であったり、実業家であったりと経済的に恵まれた生徒がほとんどでした。ところが現在は、一般家庭の子息が医学部を目指すようになりました。いくら子供がかわいいからといってもおいそれと1億近いお金を用意するのは至難の業です。
 そのような背景から私大医学部の関係者は、本当に入学するであろう人数を読めずにいるわけです。もし、入学定員に足りない場合は、繰り上げ合格者を出します。今年もありました。2次試験合格発表があってから3週間もたって合格発表を出すなどということがあるわけです。

6、これを知らないと後で後悔します。

 受験生は、3種類に分かれます。まずは、現役生です。これは、高校3年生を意味します。そして、浪人生です。一般にはこれだけなのですが、医学部入試では、この浪人生を2分します。2浪迄を普通に浪人生と称します。一方それ以上浪人生活が長い場合は「再受験生」と称します。この区別は、なんのためかというと、非公式に「再受験生」の受け入れを嫌がる大学が存在するからです。例えば、少し前の話ですが、ある主婦が、時間が空いたということで医学部受験を志しました。1次は90%を超えていたそうです。2次試験を受けた学校は群馬大学医学部でした。結果は不合格でした。しかし、話はそこで終わりませんでした。入学者の平均得点率が1次87%で、その点数をはるかに超えている、さらに2次もできたということで、情報開示を求めて大学側を相手取ってこの主婦は訴訟を起こしました。結果は、不合格は変わらず、しかも訴訟も部分社会の法理に基づいて敗訴となりました。
 このように再受験生に対して否定的な態度を取るというのは大学側が正式に発表したわけではありません。しかし、民間受験業界の遡及調査によれば、そのような傾向はあるとされています。
 また、医学部の入試は私大の場合、3教科から4教科です。その構成は、英語・数学・理科です。この時、なにも知らない受験生は、配点しかみませんが、問題文の難易度というものを加味して考えないととんでもない目にあいます。例えば、英語が100点、数学が100点、理科が50点の配点とします。配点だけをみれば英語と数学で点数を稼ごうということになります。でも、もしその大学の英語問題は難しいことで有名で受験生は頑張っても50点がせいぜいとします。逆に理科は平均的な問題しか出されないとします。そうすると、誰でも解ける理科を固めて、苦労する英語は後回しということになります。